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「多様性を大切に」 2010年10月05日更新

40億年を越える地球の長い歴史の中でその環境は苛酷な変化を続けて来たようだ。ある時は海水も沸騰するような高温状態となり またある時は地球全体が氷で覆われる低温時代となった。しかし地球上の生物はこうした環境の激変にも負けずに死に絶えることなく生き延びてきたのである。なぜこれが可能であったのだろうか。おそらく答えは生物の多様性にあったと思われる。環境の激変に遭遇した生物の中で変化に対応できないものは死に絶えたが 必ず変化に対応できる生物が現れて生命が後に引き継がれたのである。

一億年程の昔では地球の支配者は恐竜であった。恐竜はその時代の地球環境に適応してどんどん巨大化することにより競争に打ち勝って支配者の地位を手に入れたのだ。ところが9000万年ほど前に環境の激変が起こった。通説では巨大隕石が地球に衝突した為に気温が大幅に下がり このため植物の成長が止まり
恐竜はその巨大な体を維持するための食物を失って絶滅したとされている。しかしこの時それまで恐竜の影でひっそりと暮らしていたねずみのような小型の哺乳類が新しい環境に適応して勢いを得た。そしてやがて哺乳類が地球の支配者となるのである。

ではこうした多様性はどうして生まれたのだろうか。その秘密は遺伝子が定期的に起こす突然変異にありそうだ。遺伝子の突然変異はかなり頻繁に起こっているが環境に適応しないものはそのまま死に絶える。しかし非常に低い確率ではあるが中には適応できるものが出てくる。こうして生命は環境の変化に適応して生き続けることができるようだ。神の仕業としか思えないがうまくできているものである。

このように多様性は生命を遠い将来にまで存続させるために重要な役割を演じている。そしてこれと同じことが社会や組織などにもいえるのではないかと思うのだ。たとえばある会社が社員全員が同じ考えを持ち同じ行動をとるとする。
これは社長としては最も手間のかからない組織で経済的でありうまく行っている間は最も望ましい会社ということになる。しかし一旦社会環境が変わったときに社員全員がなす術を知らない事態となる可能性が高いのだ。つまり変化に対して脆い組織といえよう。昔ホンダの社長がワイガヤ経営といって社員が活発に議論することがホンダの原動力だと言っていたが これは正に企業内に多様性がなくなることを恐れていたものと思われる。

社会に関しても同じことがいえよう。たとえば教育だがすべての生徒が東大入学が唯一最大の目標と捉えて小学校のころから塾に通って受験テクニックを教わっているのは明らかに異常である。彼らはもっと多様な勉強をするべきであろう。そもそも東大入学が目的だとしたら 入学した時点で目的を失うことになるのではないか。社会に出て何をするかをまず考えそしてその目的にあった
学校を選ぶというのが本来の姿であろう。

日本社会が最も多様性を失ったのは第二次世界大戦の時であった。当時の日本は軍部の圧力によって多様性を否定され皆が同じことを言い同じ考えを持つことを強制された。そして多様性を失った結果が悲惨な敗戦であった。日本社会が末永く生き続けるには多様性を大切にしなくてはならない。これ以外にその方法はないと言っても過言ではないと信じる。

(一本杉)



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