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「民主主義は万能か」 2003年12月05日更新

ブッシュアメリカ大統領は イラクに民主主義国家を樹立すると宣言して イラク攻撃に踏み切った。 民主主義国家は善であり 独裁国家は悪であるという 白黒をはっきりとした いかにもアメリカらしい考えである。

ところで 民主主義とはそれ程素晴らしいものなのだろうか。実は 古代ギリシャに於いて 民主主義を導入すべきか否かの議論が すでに行われている。民主主義導入派は「君主制だと もし君主が愚者であった場合 国民全体がその被害を受けることになり 国を危うくするから 民主主義を導入し 広く国民の意見を取り入れながら政治を行うべきだ」と主張したようだ。

反対派は 「確かに広く国民の意見を聞いて 政治を行うことは大切である。しかし国民の殆どは政治のことなど分かっていないし 知的にも現在政治に関わっている人たちと較べると はるかに劣っている。 もし 民主主義を導入し 国の大事な政を民衆の 多数決に任せた場合 その政治の水準は他国に比べ かなり劣ったものとなることが懸念され ひいては国を滅ぼすことになりかねない。したがって 民主主義の導入は行わないほうが良い。」 と主張したとされる。                           

結局 古代ギリシャにおいて 民主主義というか 民主制が定着するのは 紀元前5世紀のアテネに於いてである。 ペルシャ帝国との大規模な戦いに 多数の一般市民が兵士として戦い これに勝ったので 彼らの発言力が大きくなったことによるとされる。しかし この場合においても 奴隷や女性や外国人には 参政権は認められていなかった。そして 民主制も紀元前4世紀のマケドニア戦争に敗れたことにより消滅し マケドニア国王による王政に戻ることになる。

民主主義(Democracy)という言葉は 古代ギリシャ以後殆ど死語となり 久しく使われることはなかったらしいが はるかに時代を下って フランス革命のときに復活した。
民主主義の思想は 革命には正にぴったりと当てはまるものだったからだ。 フランス市民は国王が民主主義を認めないのならば 暴力をもってしても これを実現させると 革命に向かい そして勝利した。 フランス革命は18世紀に起こっているから 実に約二千年後のことである。

では なぜ民主主義が一般化するのに このように長い時間が掛かったのだろうか。
筆者は専門家ではないが これには教育のありようが深く係わっているように思われる。
まさに古代ギリシャで指摘されているように 民衆が無知であれば 民主主義の採用は危険である。 民主主義が育つ土壌として ある程度の知的水準を民衆が達成していることが必要だろう。 そして これを可能にするのは 整備された国民教育制度ということになる。 これが無かったために 民主主義の定着に長い時間が掛かったのではないか。

イスラム教では 女性の社会活動を認めていないし 教育の必要性も認めていない。
つまり これだけで教育の普及は国民の約半分にとどまることになる。 さらに 残念だが イスラム教国は貧しい国が多く その故に教育が普及していない面もある。  最近アメリカが攻撃した アフガニスタンにせよ イラクにせよ 民主主義の定着には まず教育から手を付けねばならないが これだけでもおそらく大変な仕事だろうし また教育が成果を現すには 長い時間が掛かることを考えあわせれば 本当の民主主義国家の樹立とは 数十年先になって 全てが上手く運んで 初めて達成される目標ということになるのだが 果たしてブッシュ大統領はこれを意味したのだろうか。

(一本杉)

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