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「原油価格上昇の影響」 2006年05月16日更新

このところ原油価格はバーレル当り70ドル台で推移している。二年前の約二倍である。随分と上ったものだと思うが、考えてみれば第一次オイルショックの時は一年で六倍にもなったのだから、それからみればそれ程でもないとも云える。しかし値上がりの絶対額でみると、オイルショックの時は2ドルが12ドルに値上がりしたのだから上昇額は10ドルである。一方今回の値上がりは30ドル台から70ドル台に上昇したのだから、ざっとみて35ドルの値上がりとなる。つまりオイルショックの時の上昇額の3.5倍にもなっているのである。それにしてはどうも世の中が静かではないか。

エネルギーはおよそあらゆる産業活動や生活活動に欠かせないものであるからすべての価格はその時のエネルギー価格をベースにして成り立っている。したがってエネルギー価格が急激に上昇するとそれまでの価格体系が根本から崩れ、その再構築が完成するまで混乱の状況が続くことになる。オイルショックの時の長期に亘った経済不況は新体系構築までに費やした時間であり、やはり原油価格の上昇の絶対額よりは六倍にもなったという現実が問題の処理を困難にしたと考えるべきだろう。

今回の価格倍増はたしかに金額は遥かに大きいが、やはり六倍の時と較べればそのもたらすショックは小さいのであろう。電力会社やガス会社は過去30年間に亘って脱石油の努力を続けてきており、石炭や天然ガスを導入して石油依存度を下げてきた。したがって石油価格が高騰しても、その影響は以前と較べれば遥かに小さくなっている。企業全般をみても省エネルギーの努力は恒常化しておりコストに占めるエネルギーの割合も随分と下がってきている。ガソリンの価格も倍増しているが、消費者価格の半分が税金だったのがさいわいし市中の価格は50%程度の上昇ですんでいる。むしろ脱デフレの援軍とも見られているのが実情だ。

しかしだからと言って見逃してはならないのが資金の流れの変化である。日本が原油代として海外に支払う外貨は二年前には年間約6兆円(550億ドル)であったが、これが二倍になったのだから現在は約12兆円(1,100億ドル)となっていることになる。つまり支払額が6兆円も増えており、これが原油の供給元に追加として渡されているわけだ。
日本の石油消費量は世界のそれの約6%だから、世界全体では原油代の支払い増加額は年間約9,000億ドル(約99兆円)と計算される。これだけの金額を増加分として受け取っている原油の供給元はこの資金をどのように使うのだろうか。
これまでの例からすると、このような場合あまり感心しない使い方をしていることが多い。こうした過去の轍を踏まずに、是非とも世界の平和と繁栄に資するように使ってほしいと念じて止まない。また原油代金は米ドルで決済されるが、外貨に余裕のない消費国も少なくないのが現状である。こうした国々の窮状を配慮した使い方もあるのではないか。世界の英知に期待したい。

(一本杉)

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