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「サブプライムローン問題に思う」 2008年05月28日更新

アメリカのサブプライムローンの破綻による損害は全世界で90兆円にも及ぶという報道があった。実に日本の国家予算を上回る金額である。いくらなんでも金額が大きすぎるのではないかと思うのだが、本件に関していくつか疑問に思うところがあるので以下に列記してみよう。

1.この住宅ローンは比較的収入が低くしたがって金利負担能力も乏しい人たちを対象に実施されたものだという。こうした人たちをその気にさせるために当初の二年間は金利を極端に低くし、三年目から大幅に上昇するスキームを提案したらしい。このスキームが上手く運ぶケースは唯一つ、住宅バブルがはじけない場合である。しかしバブルは必ずはじけるのであり、このローンを販売した金融会社も先刻ご承知であったはずだ。だからこそ、このローンを組み込んだ証券を広く販売してリスクの分散を図ったのだろう。なにやら牛肉に他の安い肉をまぜて売った北海道の食肉会社に似ているではないか。

2.長期に亘ったアメリカの景気持続がこうしたローンに支えられていたとなると、もともと景気の持続が極めて難しい状況にあったのではないかと思われ、アメリカ経済の今後には暗雲が漂っていると見ざるをえない。つまりこのローンによって沢山の住宅が建設されていたのだから、もしこのローンが無かったとしたら住宅建設の実数はどうなっていたのだろう。景気指数はかなり落ち込んでいたはずである。それでなくともガソリンの高騰により、それまでアメリカ市場の特性であった大型自動車の需要が落ち込んでおり、これがビッグスリーと言われるアメリカの自動車メーカーを直撃している。強いドルに支えられて輸入に頼ってきた消費市場も今度は安いドルの時代を迎えてインフレはさけられそうにない。アメリカ経済にとって良い材料が見当たらないのである。

3.世界中の大手金融会社が軒並み本件に関連して巨額の損失を蒙ったのはなぜだろうか。ひとつにはお金があまっているからだろう。原油を例にとれば現在の世界消費量が大体8,500万バーレル/日と言われるから、原油価格を130ドル/バーレルとして毎日約110億ドルのお金が消費者から生産者に支払われていることになる。年間にして約4兆ドル、日本円にして400兆円を超える金額である。生産者としてもとてもこれだけの金額を使いきれるものではないから、金融機関やファンドなどにこの資金を預けて出来るだけリターンの大きい投資に回すよう依頼するだろう。巨額の資金を運用できてしかもリターンの良い投資先として彼等がサブプライムローンが組み込まれた証券に目をつけたとしても不思議ではない。余剰資金のなせる業とでも言えようか。

4.それにしても将来に大きなリスクを抱えたサブプライムローンがなぜこのように大量に行われたのであろうか。余剰資金の存在が拍車をかけたという面もあるだろう。しかしだからといって倫理観の欠如を言い訳できるものではなかろう。倫理観は電車や自動車に備えられているブレーキのようなもので、人を暴走から防ぐ役割を持っている。この倫理観を失うと歯止めが利かずに悲惨な結果を招きかねない。最近日本も含めて世界的に倫理観の欠如が伝播しているように感じるのは筆者だけだろうか。

(一本杉)

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