コラム

過去のコラム一覧へ

「資源高の経済」 2008年08月20日更新

石油に始まりその他の地下資源そしてさらには農作物に至るまで価格が世界的に高騰しており、これが末端市場における製品価格の上昇につながっている。特に日用品価格が毎月のように上っているのは、庶民の生活を直接に圧迫しておりなんらかの対策が望まれる。しかるに今のところ政府による具体的な施策がまったく見えてこないのはまことに残念であると同時に、この国の将来に不安を抱かせるものである。

第一次石油ショックの後の物価高騰も激しいものであったが、この時は賃金もそれにつれて上昇したので庶民はなんとかしのげた。だが今回は賃金を引き上げるという話がまったく聞こえてこない。なぜだろうか。思うにバブル崩壊後長期に亘ったデフレの後遺症がまだ残っているのではなかろうか。デフレのときは大企業といえども生き残ることに必死で、労働組合も労使対立ではなく労使協調を余儀なくされた。会社をつぶしてしまうよりは、なんとか会社を残さなくてはと考えたのである。

問題はこれが長期に亘ったために慣習化し、組合が労使対立に戻る元気をなくしてしまったところにある。労働組合は本来会社の利益しか考えない企業経営者にたいして労働者の利益を守るために作られたものだ。今回のように資源インフレによる物価高騰に労働者が苦しんでいる時には賃金の引き上げを要求すべきではないのか。単純に考えても企業が採算を維持するために販売価格を引き上げても、消費者にこれを買う余裕がなければ販売量が減るだけであり企業採算の向上につながらないばかりかむしろ採算は悪化するだろう。つまり賃金の増加は経営者は気が付いていないかもしれないが企業採算の向上に資することになるのだ。

現代の経済学では景気を計るのに消費者物価の動向を見る。消費者物価が上昇していれば景気は上向いていると言い下向いていればその逆だと言う。ただしこれは需要の動きを見ているのであり、主役は需要である。今回のように需要に関係なく資源高につられて消費者物価が高騰する場合には、需要を刺激する必要があるのは当然だ。つまり消費者にお金を渡さなくてはならない。今回資源インフレの影響を最も強く受けているのは低所得層であろう。賃金の上昇というかたちでお金を渡すのは企業と労働組合にまかせておいて、政府としては最低賃金の引き上げ・必需品に対する消費税の減免・低所得層に限定した医療保険の減免・電気やガス代の補助その他考えられるものは沢山あると思うが、とにかく低所得層にお金を渡す策を考え実行する必要がある。

ところで景気全体の浮上策だが、アメリカのサブプライムローンが一つの事を教えてくれている。つまり借金に基く需要のパワーである。サブプライムローンは倫理的に問題があったと思うが、国民が進んで借金をすれば大きな需要が生まれることは証明された。そこでどうしたら国民に借金をしてもらうかを考えたらどうだろう。国民が借金を選ぶ条件は(1)将来に向って着実に収入が増えると思える場合(2)インフレが進んで将来の物価が上昇すると思える場合(3)政府が常に適切な経済政策を講じ裏切られるおそれがないと思える場合、大体こうしたところだろうか。政府の皆さんよくお考えください。

(一本杉)

ユーザーID:
パスワード:
ログインする
e-BISTRADE