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「過去30年間の日本経済から何を学ぶか」 2009年05月15日更新

1978年のホメイニ革命に端を発した第二次オイルショック以後日本の経済は長期に亘って低迷を続けた。こうした事態を何とか打開しなくてはならないとの思いは日本中に溢れていたが、そこに一石を投じたのが1986年に発表された「前川レポート」であった。時の日銀総裁によって書かれたこのレポートは思い切った金融緩和により日本経済の底上げを図るべきと述べ、以後の金融政策の道筋をつけたと言えよう。その効果は期待どおりのものであり1985年には13,000円であった平均株価は1989年には39,000円にまで3倍も跳ね上がったのである。景気の浮上には成功したが同時にバブルの登場を招いたのだ。

あり余るお金は何も株にだけ向かったわけではない。土地神話が存在する日本では土地の値段は下がらないという通念があり、日本中の土地が買い漁られた。買った土地が値上がりして利益を生むので、その利益で更に土地を買うという循環が当たり前となった。1987年に民営化された国鉄が巨額借金返済の原資としてバブルの真最中に保有不動産の売却を計画したが、それは地価の上昇を煽ることになるという訳のわからないことを理由に某有力代議士によってつぶされた。すべからく物の値段は需要と供給のバランスにより決まるのだから、国鉄の土地が売りに出されれば供給が増えることになり土地の値段は下がると考えるのが当たり前なのだが、マスコミにもこれを批判する意見は無かったと記憶する。

急膨張したお金は海外にも向かい、ニューヨークのロックフェラーセンターの買収なども行われたが、これなどまさに正気の沙汰とは思えない所業であった。日銀はもっと早い時期に市場の変化を察知して過熱を抑える策を講じるべきであったが、役所の常で後手に回ったのである。そして90年代に入ってこのバブルが破裂する。まず巨額の不動産や株式を保有していた銀行や証券会社が軒並み経営危機に陥り日本経済は奈落の底に沈むことになった。日銀は景気を刺激するために限りなくゼロに近い政策金利を設定したが、一向に景気が目に見えて回復する様子はなかった。それでこの超低金利の時代が長期に亘り続くことになるが、日銀は気がつかなかったようだがこれが世界経済に新しい展開を与えることになったのだ。

欧米の金融機関が日本の超低金利に目をつけ、円を大量に借り入れてこれを金利の高い通貨例えばドルと交換して金利の利ざやを稼ぐことを始めたのである。これにより彼らは金利差で利益を得ることはできたが、大量のドルを保有し続ける状態となった。そこでこのドルがさらなる利益を求めて世界中を駆け巡った。石油を筆頭に地下資源や農産物にいたるまであらゆる資源が高騰し、不動産の価格も暴騰した。つまり低金利の日本円が世界中にインフレを撒き散らしたことになる。

低金利の円をドルに換える段階で円が売られるのだから円の対ドル相場は下がる一方であった。通常海外がインフレで日本は違うという場合円高になるのだが今回はその逆であった。これにより想定外の利益を売ることになったのが日本の輸出産業である。なにしろ諸外国はインフレ状態であるから製品は高く売れる。それに加えて円安が進むから海外から受け取る収益は円ベースではさらに増える。まさに彼らにとっては良いことずくめの期間であった。トヨタが驚くような利益を計上したのも当然なのである。これを実力と錯覚して規模の拡大に走った会社は現在そのあまい判断のつけを払わされている。

さて、アメリカのサブプライムローンの破綻に始まる世界的金融危機により世界を覆っていたインフレは終焉し、今度は金融機関の救済に各国が苦悩する時代となったが、これをこれまでの偽物経済から本物経済への転換のチャンスと捉えたらどうだろうか。本来金融機関は生産やサービスに従事する企業に資金を提供して支援し、同時に預金に相当の金利を支払うことにより眠っている資金の活性化を図るのがその目的であるはずだ。ところがニューヨークを中心にいつの間にか金融機関がその本来の目的とは無関係に資金をたらい回しすることにより利益を得るようになってしまった。住友家では昔から浮利を追わずという家訓があるそうだが、ニューヨークはまさにこれを追うことに夢中になってしまったのである。これが長続きするはずがない。

ともあれ今回の破綻によりこれまでの経済が偽物だったことがはっきりし、これから本物の経済に戻ろうとする機運が高まったことは結構なことだ。オバマ大統領の言動にもこれははっきりと表れており、アメリカの言うことなら何でも聞く日本でも同様の動きとなるだろう。日銀をはじめ日本の銀行は信じられないほどの低金利で預金者の利益を略奪するようなことは改め、正当な金利を支払うべきである。輸出産業が日本の生命線であるような考えを改め、高い円でもやっていけるような企業体質に転換するよう求めるべきである。高い円は国民にとっては良いことなのだ。そして国を挙げてエネルギーの自給率を上げる方策を考え実行することだ。そのために使うお金は将来大きな利益を伴って帰ってくるだろう。国の財政に関連して子供たちに負の遺産を残してはならないと言うが、エネルギーの自給に何ら手を打たない方がはるかに大きな負の遺産を後世に残す結果となるだろう。

(一本杉)

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