コラム

過去のコラム一覧へ

原油価格、イラク危機と湾岸危機 2003年04月09日更新

ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のWTI原油先物期近物は2月27日午前、一時的ではあるが1バーレル当たり39.99ドルと、40ドル目前まで急騰した。米国などのイラク攻撃が始まれば原油価格は40ドルを超すといわれてきた。27日の終値は37.20ドル、前日比0・50ドル安だから、40ドルが定着したわけではないが、国連安保理の交渉を見ながら原油価格も乱交下している。
 今回のイラク攻撃について湾岸危機当時の状況が引き合いに出されることが多い。イラクがクウェートに侵攻したのが1990年8月、その直前7月のWTIスポット価格平均が18.28ドル、これを指数で100とする。原油価格は毎週急騰し、10月には月平均36.39ドル、指数にして199に達した。危機発生後10週間でWTIの価格は2倍になった。戦闘が開始されたのが91年1月中旬、同月の平均が26.25ドル、指数で144と値下がりしていた。戦闘は2月末に終了し、WTIの3月平均は19.40ドル、指数は106で、ほぼ危機発生前の水準に戻った。
 湾岸危機の時は、イラクのクウェート侵攻が突然だった。今回は1年以上も前からイラク攻撃が予想され、それを材料に原油価格が上昇した。ブッシュ米大統領が2002年の年頭教書で「イラン、イラク、北朝鮮は悪の枢軸」と述べたのが1月末、同月のWTI期近物平均が19.40ドル、これを指数で100とする。前記の2月27日の高値39.99ドルは指数で206になる。2月のWTIの平均は35.73ドル、前月比3.0ドル高、指数では184である。原油価格は湾岸危機当時に匹敵する高値になっている。
 イラク攻撃が開始され、戦闘が短期間に終われば原油価格は下がるとの説がある。だが、湾岸戦争当時に比べてマーケットの状況がかなり違う。先ず原油需給がタイトである。その最大の原因はベネズエラの供給減少である。べネズエラのストライキは、チャベス大統領の実質的な勝利に終わり、2月始めから一般のストは収束された。産業界のゼネストを指導したフェデカマラス(経営者団体)のフェルナンデス会長は国家反逆罪容疑で逮捕された。だが、国営石油PDVSAの生産は回復していない。同社はスト前には300万バーレル(日量、以下同)程度を生産していたが、2月の生産は大統領側の発表で200万バーレル、消息筋の見方では160万バーレル程度で、原油生産は早急には回復しないという。
 ベネズエラの油田は強制回収の重質油が多く、いったん生産を停止すると再稼働に時間がかかる。PDVSAでは、大統領派の経営者に反発していた管理者や技術者、現場作業責任者などがストを契機に解雇されたり自ら離職した。彼らは海外に職場を求めて流出しストが終わっても帰ってこない。それも生産回復が遅れている要因である。原油価格高騰はイラク問題よりもベネズエラ情勢の影響が大きい。
 第二に米国の原油在庫が減少している。APIの発表によると、2月7日時点の原油在庫は2億6,704万バーレル、1975年いらい28年ぶりの低水準、1991年の湾岸戦争当時に比べても8割程度の水準である。ベネズエラの供給減少と、今年の冬は寒波が厳しく暖房油などの需要が増加したためである。
 OPECも原油価格の高騰が長引くのは好ましくないことは承知している。原油生産粋を昨年12月の臨時総会で130万バーレル、1月の臨時総会で150万バーレル、合わせて280万バーレル引き上げ、日量2,450万バーレルにした。サウジアラビアは1月に生産枠の747万バーレルを大きく上回る900万バーレル、22年ぶりの大増産をしたといわれる。イラクも1月は250万バーレル、昨年4月いらい最高の生産量である。昨年は40~50万バーレル/日を第三国経由で米国に輸出し、第6番目の原油供給国になる皮肉な役回りとなっている。
 ワシントン・ポストなど米国のメディアの報道によると、サウジはイラク攻撃が始まった場合、150万バーレル程度の増産をすることで米政府と基本合意しているという。
 日本もそうだが、世界的に石油会社が原油の調達を増やして備蓄しているのも需給タイト化の要因である。しかし、サウジなどの増産と春の不需要期に向かうこともあって、中東の原油需給は2月末から緩和傾向が見える。商社筋によると「中東原油は現物需給の緩和が目立ちはじめた」という。日本の石油会社の調達も一段落した。オマーン原油スポット・プレミアムは2月中旬まで30セント/バーレル程度ついていたが、月末にはほぼ解消した。
 第三に原油価格の上昇を支えているのが、NYMEXなど商品市場の投機の拡大である。これが湾岸危機当時と大きく違う点である。米国景気は昨年から後退過程に入っているが、イラク攻撃は米国の財政負担を増加させ、ドルの下落を招き、景気に打撃を与える。企業業績も低迷するとの見方から株式相場が下がっている。ダウ工業株30種平均は昨年3月の平均10,403ドルから、今年2月は7,891ドルに24.1%下がった。株安は米国だけでなく欧州も日本も同じで、株式やドルから逃避した投機資金が原油や金属などの商品相場に流入している。
 NYMEXの昨年のWTI先物売買高は4,568万枚。当時の最高を記録した1990年に比べて93%の増加で2倍ちかい。国際商品先物価格の動向を示すCRB指数も、昨年1月の191.44から今年2月は247.89に56.45ポイント、29.5%も上昇している。株価とは対照的な動きを表している。投機の増大は原油価格を押し上げるだけでなく、高止りさせる傾向がある。それが湾岸危機当時のような原油価格の急騰、急落を防いでいる。
 OPECは3月11日の総会で、不需要期の4月以降も生産枠を削除せず、「地政学上の緊張による市場の不確実性」に注目し、必要な場合は迅速かつ適切な行動をとることを決めた。  

ユーザーID:
パスワード:
ログインする
e-BISTRADE