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「不可解な石油開発再開」 2006年05月31日更新

政府は石油開発に再度乗り出し現在輸入原油の15%である自主開発原油の割合を約25年かけて40%に増やす方針を打ち出した。ところがその趣旨を見ると、7,000億円以上の損失をだして清算に追い込まれた旧石油公団設立時のものとほとんど変っていない。石油の本質を知らない人達が考えた構想であることは歴然としている。

まず石油の探鉱開発は非常にリスクの高い仕事であり、借金を前提に行うには無理がある。ところが政府の構想では事業会社の巨額の借金を融通することが大きな支援策となっている。これではルーレットの客に融資するようなものでその客に返済能力がなければ店の負担となる。ルーレットの場合はそれだけのことだが、石油開発融資で同じようなことが起きれば損失は国民の負担となる。エクソン・モービルの年間研究開発費はおそらく一兆円を超えているだろうが、その倍以上の年間利益の中から支出されているのである。彼我の差は歴然としている。

つぎに事業化の際の融資条件として投資収益率が10%を超える事としているが、この収益率は各時点での原油価格の変動によって変化する性質を持っており、事業化の際の基準としては真に信頼度に欠けるものである。このような数字が出てくること自体がこの推進を図る人達の無能さと無責任さを現していると云ってよかろう。原油生産事業は他の商売と同じく他社との競争の中に身を置くものである。その競争の原点となるものは自社のコストである。コスト競争を生き抜くだけの備えがあるかどうかこそが審査されるべきであり、この審査をまともに行えば合格案件が出てくる可能性は限りなく低いと思う。

さらに有識者でつくる監査組織が投資対象を厳選し採算を毎年点検するとのことだが、この有識者とはどんな人達なのだろう。事業会社の経営者が石油のプロであるなら、それ以上のプロである有識者が存在するのだろうか。また採算を毎年点検するというが、採算が悪かった場合に事業清算させる権限があるのだろうか。原油価格は常に変動しており、今安ければそのうち必ず高くなる性質をもっている。よって採算が悪い時には必ずそのうち良くなるという期待感が支配的となり事業撤退はまず不可能である。つまりこれらはまったく意味のないものなのである。

結論としてこの構想はおそらく大失敗に終るだろうし、旧石油公団の二の舞となるだろう。原油権益取得のための最もリスクの少ない方法はすでに原油を生産している会社を買収するか、既存の油田に一定の割合で参入することである。
これなら原油は間違いなく手に入る。しかし現在のように原油価格が高騰しているときには高い買物をすることになり、採算はそれほど期待できまい。したがってこの方法は原油価格が低迷しているときにこそ有効な手段となりうるのである。原油価格高騰時にうろたえて何をやってもうまく行くわけがない。原油価格が今以上に上れば必ず消費が減る。消費が減れば価格は下落する。しばらく様子を見るのが上策といえよう。

(一本杉)

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