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「難題を抱えたアメリカ政府」 2009年07月28日更新

世界最大の自動車市場であるアメリカにおいて長期に亘りその市場に君臨してきた三大自動車メーカーのうちGMとクライスラーがChapter 11を申請した。このChapter 11は連邦破産法と一般に訳されているが、その中身が分かりやすいという意味では会社更生法と訳した方がよいと思う。経営が行き詰った会社は、会社を清算するかあるいは更正法に基づいて再建の機会を得るかの判断をせまられる。当面の危機を乗り切れば再度立派な企業として運営できると経営者が判断する場合更正法を申請し、裁判所の同意を得ることができれば更生法適用が決定される。これがChapter11の中身である。

ところでこのCapter11は以前から批判も多い法律である。この申請が裁判所により承認されると、債務の履行をしなくても会社が倒産することはなくなる。つまり借金踏み倒し法とも言えるもので、これによって身軽になった会社に軽減されたコストを武器に市場で暴れまくられたら、まじめに努力を積み重ねてきた他の会社がたまらないとするものでこれにも一理ある。この場合の裁判所の判断は、倒産と厚生夫々において社会が受ける利益と損失を計り厚生の場合の利益の方が大きいと判断されるとこれを認めることになる。結果としてGMもクライスラーも更正法適用が決まったがそれにしても負債額が大きすぎるのが問題だ。

報道によればGMの負債総額は約17兆円でこのうち約5兆円を優良資産を譲渡された新GMに移譲するらしい。では残りの12兆円はどうなるのか。GM本体に残された不良資産などを売却してこの返済にあてるらしいが、さてどの程度の負債が返済されるのだろうか。もともと残っているのは不良資産とみなされたものだからさしたる価値が残っているとは思えない。つまりGMに対する巨額の債権が回収不可能となるわけで、債権者のこれほどの損失を補ってもなお更正法適用に社会的意義があると説明するのは容易いことではなかろう。

この問題をさらに難しくしているのが、巨額の公的資金投入の見返りに政府が厚生会社の株式の約60%を保有することだ。これはとりもなおさず国有会社として出発するということであり、この会社が優良資産だけを集めたものであるからおそらく今後の運営は上手くいくだろう。こうして政府の出資金は保全されるが、大きな損害を蒙った一般債権者にこれを何と説明するのだろうか。彼らの中には倒産に追い込まれるところも数多いだろうし、彼らが政府によって会社を潰されたと思っても不思議ではない。

政府が特定の者に利益を供与しその他の者に不利益を押し付けるようなことがあってはならないのは当然の道理である。そのようなことにならないように政府はこれから慎重にことを運ばなくてはならないだろう。どんなに計画を綿密に練ったところで国民の反発をかったらおしまいである。GMは自動車を作って売る会社でありその顧客は国民である。顧客を敵に回して会社が上手くいくはずがない。ちなみにこれまでChapter11の適用を受けてその後素晴らしい会社に生まれ変わった例を筆者は知らない。

(一本杉)

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