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「発明の対価」 2005年02月01日更新

新年早々例の青色発光ダイオードの発明者である中村教授が 日亜化学工業から8億4千万円を受け取ることで和解に応じたとの報道が流れた。 この発明は教授が日亜化学在籍中になされたもので この特許取得時に会社から貰った報奨金は二万円だったという。これはあまりにも人を馬鹿にしたものではないかと 同社退職後にもっと正当な報酬があって然るべきであったとして同社を訴えたものであることは すでにご存知であろう。 

第一審の判決は この発明により日亜化学工業が得た利益を600億円と査定し 会社は中村教授に200億円を支払うべしというものであった。 会社はこれを不服として控訴審に持ち込んでいたのだが 裁判所は和解を勧めていたという。 これを受けて両者が和解に合意したとのことだが 中村教授は和解に合意したにも係わらず不満一杯の様子である。

中村教授の発明が日亜化学の業績に大きく貢献していることは確かなようだ。 同社が青色LEDの発売を開始した1993年から2005年までの12年間に 同社の売上高が167億円から2120億円へと13倍に増えているというから その貢献の度合いが相当なものであったろうことは想像がつく。 中村教授によれば 青色LEDによる日亜化学の営業利益は2000億円だそうだ。 そう云えば 最近大型の交差点の信号機は殆どLEDを使用しており これから全ての信号機がLEDに変わるのだろう。これだけを見ても 青色LEDのマーケットの大きさが伺える。 

サラリーマンとして会社で研究開発に取り組んでいる場合 その成果を会社と研究者との間でどのようにシェアーするかは 確かに難しい問題だ。 会社の側から見れば研究開発部には大勢の研究員がおり その中で会社の大きな利益に結びつく成果を挙げるのは百人に一人居るか居ないかであろう。 よしんば部員百人の中に一人居たとして その成果を一人の物と見るか あるいは百人の物と見るか。 さらには研究開発部以外の社員を含めた会社全体の物と見るか。 これは悩ましい問題でもある。 しかしその人物が居なければ成果を得ることも無かったろう。 だとすれば その人物が会社が得た成果の中からかなりの割合を得ることは当然とも思えるのだ。 

これは裁判でどのくらいの割合が妥当であると決める性質のものではなかろう。 おそらく様々な事例が積み上げられて行く中で 常識的な配分の割合というものが自ずと決まってくるのだろう。現時点で配分の割合に上限を決めている会社が多いようだが 上限を決めていない会社もあるようだ。 発明とは誰にでもできるというものではない。 自分の研究対象に対し 並外れた執着心が必要だろう。 そして そうした執着心は往々にして周囲とのトラブルのもとになりやすい。 つまり 組織の中では並外れた執着心を持つのは リスクを伴うことである。 このリスクは日本の会社において特に大きいと思える。だが 会社としてはこのリスクを背負って貰わないと 発明のような普通でない成果は期待できない。となれば やはりかなり思い切った成果の配分を行うべきはないか。 

ちょうど中村教授が和解に応じたとの報道と時を同じくして ヤンキースの松井選手の今年の年俸が報道された。 奇しくもその金額は和解額と同じ8億4千万円とのことであった。 和解額は 延滞金利2億4千万円を含んでいるというから 中村教授が正当な報酬として会社から得た金額は6億円となる。 松井選手はおそらく現役選手として働けるかぎり 今年と同等かあるいはより高額の年俸を貰い続けるだろう。 一方 中村教授は次の大発明があったとしても 何時のことになるかわからない。 こう考えると 中村教授が稀有の発明の対価として受け取った金額は いかにも少ないと思えるのだが。

(一本杉)


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