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「情けない日銀総裁」 2006年07月03日更新

福井日銀総裁が総裁就任以前から村上ファンドに1,000万円を投資していたとして問題になっている。一般人にとっては何等不思議のない投資だが、この場合はかなり違う。日銀総裁といえば国の経済の路線を決める立場にある人間であり、その一挙手一投足が為替や株価の変動につながる。したがってこうした立場にある人間は、金融や証券業界と一切私的な損得関係を持たないのが当然の良識である。村上ファンドの村上氏がインサイダー疑惑で取調べを受けているが、福井氏が総裁就任後も投資を保持し続けたのも、インサイダーとしての利益を享受する意志があったと疑われても仕方あるまい。

福井氏は1,000万円の投資が2,000万円以上に増えていることをやむなく公表し、このすべてを福祉団体に寄付する所存であること及び今後六ヶ月間総裁としての給与の3割をカットすることにより、総裁職に留まる意向を示した。つまり、投資では一銭も利益を得ていないのみならず、投資額も寄付し給料もカットするのだからこれで充分ではないかと言いたいようだ。しかしこうした対応に強い違和感を感じるのは筆者だけだろうか。

もし本件が露呈しなかったらどうなっているだろうかと考えると、今回の福井氏の対応がなんら根本的な解決に結びつかないことがはっきりする。この場合おそらく福井氏は総裁任期を無難に勤め上げただろうし、任期中に増えたであろう投資に対するリターンも懐に入れたであろう。そして事態をさらに悪くするのは、こうした福井氏の行為は投資を共に行った仲間のみならず日銀組織の中でも知られているはずだから、良識の欠如が組織内に受け継がれていく可能性が高いことだ。組織はこのようにして腐敗していくのである。福井氏が投資額およびそれによる利益を返上したところで、彼が今後任期を全うした場合に得る退職金も含めた総収入から見れば僅かなものである。深い反省の象徴とはなり得ない。やはり彼は身を退くべきだと思う。良識の欠如は日銀総裁として致命的欠陥であることを身をもって示し、今後同様のことが起こらないように配慮すべきだろう。

(一本杉)

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